Lewy小体(レビー小体)型認知症
レビー小体型認知症は神経病理診断では認知症全体の20%とされています。一方で厚生労働省の班研究によるとレビー小体型認知症、および認知症を伴うパーキンソン病と診断された割合は4.3%とされ、報告により差があります。
原因
アルツハイマー型認知症が脳へのアミロイド沈着が原因とされているのに対して、レビー小体型認知症は、レビー小体と呼ばれる特殊な構造体が脳の神経細胞内に出現し、その結果、神経細胞が破壊されることが原因とされています。
病初期に似たような症状を呈し、レビー小体型認知症と鑑別の難しい病気にパーキンソン病という病気があります。パーキンソン病は、手足の震えや、筋肉が硬くなるなどの症状が出る病気で、レビー小体型認知症でも同様の症状が出現することが多くあります。
レビー小体型認知症ではレビー小体が大脳の表面に近い大脳皮質という部位に集まるのに対して、パーキンソン病では中脳の黒質という部位に多く集まります。
症状
初期は記憶障害が目立たない、ということが特徴の一つです。出現する症状には以下のようなものがあります。
1.認知機能障害
認知機能の障害とは、いつ、どこ、だれ、といった状況の把握が難しくなってくることです。言葉を話したり聞いたり読んだりして理解する、といった能力も低下してきます。
これらの症状が良い時と悪い時がはっきりしていることも特徴の一つです。
アルツハイマー型の認知症は徐々に認知機能が低下しますが、レビー小体型認知症は良い時と悪い時を繰り返しながら認知機能が低下していきます。
2.幻視
そこに実際にないものが見えます。たとえば知らない人が隣に座っていたり、壁の模様が虫が這っているように見間違えたりすることがあります。
3.パーキンソン症状
上述のパーキンソン病と言われる病気に出てくる症状です。手のふるえ、筋肉のこわばり、急に止まれないなどの症状が出ます。転倒の原因にもなり注意が必要です。
4.自律神経障害
自律神経の調節がうまくいかなくなります。例えば便秘、尿失禁などを起こします。また血圧の調節力が低下するために、立ち上がった時急に血圧が下がり、転倒や、意識を失うこともあります。
5.睡眠障害(レム睡眠行動障害 RBD)
睡眠中に突然大声をだして怒鳴る、暴力をふるう、手足をバタバタと動かすなどの症状が出現します。これらの症状は、レム期とよばれる比較的脳が活発に活動している入眠中に起きることから「レム睡眠行動障害」と言われています。
6.抑うつ状態
経過中に高い確率でうつ症状を認めます。幻覚や妄想などの症状と同時に出現することも多くあります。
7.嗅覚障害
嗅覚障害は比較的早い段階から認めることが分かってきました。まだ認知症の前段階である軽度認知障害の時期から認める場合もあります。
診断
症状や心理検査、画像検査などを併用しながら診断を行います。
1.問診
症状も多彩で他疾患との鑑別が重要になります。医師は本人や普段ご一緒に過ごされているご家族に症状について詳しくお聞きします。
2.心理検査
心理士により対面的なテストを行います。代表的な検査に、ミニメンタル試験があります。簡単な図を描いたり、書字や計算などが検査項目にあります。追加で詳細な検査を組み合わせていくこともあります。
3.画像検査
CTやMRIといった検査で脳の形態を評価し、他疾患の除外をおこなっていきます。
必要に応じてSPECT・PT・MIBG心筋シンチグラフィー・睡眠ポリグラフなどを行う場合もあります。
4.血液検査
ビタミン不足や内分泌異常など、ほかの認知症を来す疾患との鑑別の目的で行われます。
治療
レビー小体型認知症の根本的な治療は困難ですが、症状などに応じて以下のような治療があります。
1.認知機能障害
社会的な交流を増やしたり、状態に合わせて周囲の環境調整を行います。薬物療法としてドネペジル(アリセプト)という薬が保険適応で認められています。
2.幻視、幻聴、うつ、怒りやすさなど(認知症のBPSD(行動・心理症状)といいます)
まず症状が出る理由を考えて周囲の環境調整を行います。薬物治療としては漢方薬を用いたり、リスペリドンといった抗精神病薬を注意しながら用います。またうつ症状に対しても抗うつ薬を用います。
3.レム期睡眠障害
日光浴や環境調整による刺激、日中の社会活動への参加など、昼間の活動量を維持します。薬物療法としてはクロナゼパム(リボトリール)や精神病薬を効きすぎないように注意しながら用います。
4.自律神経障害(起立性低血圧、便秘など)
(1)起立性低血圧:臥床中は少し頭を挙上するように心がけ、塩分不足にならないように注意します。弾性ストッキングを用いて下肢へ血液がうっ滞することを予防します。万一転倒した場合の環境調整も考えておきます。状況に応じて薬物治療も考慮します。
(2)便秘:食物繊維を積極的にとるようにします。できるだけ体を動かし消化管の動きを促進させます。状況に応じて、薬物治療も併用していきます。
5.パーキンソン症状
運動療法を行い、可能であれば歩行時の姿勢の矯正を行います。出来るだけ筋肉量を維持するようにします。必要に応じて抗パーキンソン病薬を用いますが、BPSD(行動・心理症状)が悪化することもあるので注意して専門医のもとに治療を行っていきます。